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                                              ■□■ 【妖世滅佛(佛業雙身武戯)】 ■□■

【慈雨】 第一章 再会

2008年10月04日 07:11

 少女は蓮華の方に振り返ると、くりっとした丸い目でじっと見据えると、
「蓮華!」
とはじけるような声で呼びかけた。
 二人は笑みを浮かべ、互いに駆け寄り懐かしげにお互いの顔を覗き込んだ。
「何年ぶりだろう?」
「5年ぶりよ。ここに来たばかりのころはひょろひょろしてたのに、今ではがっしりして頼もしい感じね。」
それを聞いた蓮華はちょっとはにかみ、思わず笑みがこぼれた。
 目の前にいる少女は5年前の幼い頃の面影が残っていたが、ちょっと大人びた雰囲気があり、蓮華にはそれがぎこちなく感じた。しかし、昔、一緒に仲良く遊んだ二人は、すぐにうちとけると、5年間の溝を埋めるかのように話をし始めた。
とはいえ、蓮華は仕事の最中であり、水汲みの後にも仕事が控えている。そんなに長く話はできない。
「 毎日僕は早朝と夕方に水を汲みにここにくる。君は来れるかい?」
「 そうね。夕方は無理だけど、早朝は来れるわ。」
「 じゃ、明日会えるね。」
「 えぇ、明日ね。」
蓮華は少女と明日の約束を交わすと、池の水をてきぱきと桶に汲み、
「 明日、また!」
と別れを告げ、山道を駆け足で上った。
「 今日の君は、やたらと機嫌がいいんだな。」
いつの間にか蓮華の横に善法が、怪訝な顔をして立っていた。蓮華は全く善法に気づかなかった。確かに今日の自分は機嫌がいい。機嫌がいいというより、善法が傍に来たことさえ気づかないほど浮かれている。蓮華はそんな自分の感情に気いて、内心焦った。
「 一体、何があった?」
善法はしつこく訊ねてきたが、蓮華はしらをきることにした。
「 いや、特になにもないよ。」
「 ふ-ん・・・・あんまり感情を顔にださない君が終日ニタニタしているので、どうしたのかと思ったんだがね。まぁ、気落ちして暗くなられるよりは、いいか。」
「 それより、何か用があるんじゃないのか?」
と蓮華に促されて、善法はそうそうと思い出して言った。
「 全国に散らばっていた闇の行者が、近々萬聖巌に戻ってくるらしい。」
「 闇の行者?」
「 あぁ、知らないか。闇の行者とは、全国を旅しながら異能者を探すものたちのことだ。闇の行者自身、異能者である場合もある。彼らは、ある予言に記されている人物を探しているんだ。」
「 へぇ・・・・で、闇の行者が戻ってくるということは、その人物を探せだせたのかい?」
「 じゃないか、というもっぱらの噂だ。なにぶんこの事の仔細を知っているものは、ごく僅かだからね。」
「 ふ-ん」
「 関心がないのか?」
「 ないな。」
「 しかし、闇の行者が予言に記されている人物を探し出したとなると、そうも言ってられないぞ。予言が外れればいいが、今のところ予言が当たる確率の方が高い。そうなると、てんやわんやだ。」
 うんざりした顔で善法がぼやく。
 蓮華は、ちょっと意外に思った。 
 善法はしっかり者で周囲への気配りもできるし、日々平穏が一番という顔をしてはいるが、実際のところ喧嘩の仲裁に入っている時の方がよっぽど生き生きとした表情をしている時がある。本人が揉め事を嫌うという割には、実は一騒動あるくらいの方が善法にはむいているかもしれない。蓮華はそう思うと、ちょっとおかしくなった。
 翌朝蓮華はいそいそと池へと水汲みに出かけた。いつもより時間が早かったが、池の淵には少女の後姿が見えた。蓮華は思わず嬉しくなって、「雨衣!」と少女の名を呼んだ。
 雨衣は蓮華の声で振り返ると、にっこり笑った。その笑顔がとても優しくて、桜の蕾がふわっとほころんだようだった。蓮華の心は益々弾んだ。蓮華は池の淵まで来ると、先ず桶に水を汲んでから草の上に座りこんだ。それを見た雨衣も蓮華の横に座り込んだ。
「 今日は早く来たから、昨日よりは時間があるよ。」
「 そう、よかった。お勤めは大変でしょう?」
「 あぁ。でも、もう慣れてしまった。ところで、雨衣はどこにいるんだい?」
「 住んでいる場所?あっちよ。」
雨衣はそういうと、池の東側を指差した。山のいたるところに建物があるにはあるが、池の東側から先にはなにもないと聞いてたので、蓮華は東側には何もないと思っていた。まだまだ自分には知らされていない事柄があるらしいと思った。


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